黒い霧に包まれ、真っ暗な空間・・・
その中で俺は好きな歌を歌い、霧と一緒に空を漂う。
ふと下を見ると、アークスと思しき青年がどこかへ走ってゆくのがぼんやりと見える。
じゅるり、と音を立て舌なめずりをすると、晴れた霧と同時に、アークスの頭目掛けて武器を振り下ろす。
アークスは間一髪で俺の攻撃を受け止める。
俺は、たんっ、と飛び上がり距離を取ると、
纏った真っ黒で重いマントの中から、両腕を這うように蛇が出てくる。
背からは大蛇が頭上に顔を出し、俺の頭に乗った小さな王冠を悪戯に舐める。
蛇達に指令を下すと、一斉に青年に飛び掛る。
次々と蛇達を薙ぎ倒してゆく青年の瞳に映るのは、
頬を血飛沫に染め、にやりと笑った、不思議な姿に変わり果てた俺の姿―――
そんな、夢を見た。
A.P.238 2/21
眠りから覚め、シャワーを浴びて服を着替えタスクを確認すると、依頼などは入っておらず
すかすかの状態で、今なら好きに行動できる状態だったので森林へ向かった。
あの直後の森の様子を見ておきたかった。
森林の上空でシップを止めると、いつものようにプールへ飛び込み、舞うようにして地面へ落ちる。
ここは惑星ナベリウス、森林のド真ん中。
先程までの事が嘘のように、水も空気も澄み渡り、原生種が駆け回っている。何も異常は無いようだ・・・
無防備な原生種を少し遠くから眺めていると、腹が鳴る音が聞こえたと同時に、どくんと大きく脈打つのを感じた。
ザッと地面に伏せ、タイミングを見計らい、まるで野生動物が狩りをするように原生種の首筋を牙で捕らえた。
口元に原生種の鼓動を感じる。暴れるのを叩き伏せ、じっと待っていると、その鼓動がだんだんと弱まってゆき、
やがては全ての動きを止めた。
ゆっくりと首筋から口を離すと、血と唾液が滴り落ちる。
食事の時間だ、心の中で唱えた次の瞬間にはもう、原生種は跡形も無かった。
袖で口元を拭い、膝を抱えるようにしてしゃがんだまま、少し黄昏つつ考えてみた。
ごく自然に原生種の肉を生で喰える。しかもそこそこ美味い。
しかしほぼ腹が満たされる事は無い。そこそこのサイズ感があった筈だが。
血の匂いを嗅ぎつけ寄ってきた原生種も、捕らえて食べた。
既に“化物”として立派に仕上がり、空腹に耐えられなくなっている。衝動に抗えない。
ならば考えるべきは、こいつとどう上手く付き合ってゆくか、だ。
その瞬間、俺は化物である事を自覚し、開き直った。
シップへ戻ろうと踵を返すと、通信機からうるさい程のブザー音が鳴る。
「緊急警報発令。アークス船団周辺宙域に、多数のダーカーの反応が接近しつつあります。アークス各位、適切な対処に・・・・」
・・・アークスシップにダーカーが?
すぐにピピッと通信が入る。
「アイルだ」
「アイル、今どこに居る?」
通信を掛けて来たのはゼノだった。
「森。」
「すぐにアークスシップに戻れ!管制が追いつかない程ダーカーの侵略が早い!」
「分かった」
駆け足でシップへ戻りつつ、何故シップにダーカーが入り込んだんだ・・?と考えていた。
ここ数日で何かが狂い始めている、そんな気がした―
アークスシップロビーへ戻ってきた。
全体を見渡すべく一番上へ出て、しゃがんで硝子の床越しにロビーを見回した。
緊急時に変わる照明で真っ赤に染まったロビーに、逃げ惑う一般市民の悲鳴、
ダーカーの侵略を食い止めんとするアークス数人と、
完全にダーカーに追い詰められている、片腕の無い―――・・
考えるより先に身体が動いた。
認識した瞬間、酷く心が踊った。
気付けば顔はにやけていた。
胸が、腹が、背が、疼く。
俺の中の“化物”が、欲してる。
真下にダーカーを捉え、刀を構えて、真っ逆さまに落ちる。
着地と共に飛び散るダーカーの体液。どこからか、芳醇な香り。
起こした風に振れる、青色の髪。
「よう、また会ったな?」