A.P.238 2/27

 

「タイムマシン・・?」

キョトンとした顔で、アイルはやや腑抜けた声を出した。

 

確かにここは、色々発展して、所謂“近未来的”な所だが・・・

救急ブース、“メディカルセンター”からこの会議室に呼び出され聞かされた話は、

にわかには信じがたい話だった。

 

「ああ、ついこの間君が駆り出されたダーカー大発生、

あれは起こってはいけない、由々しき事態だ。」

研究者の男は、淡々と話を続ける。

「・・俺に改変を成し遂げろと?」

出されたお茶に手を伸ばし、コップを掴もうとした手は虚空を掴む。

左目の眼帯を撫で、恥ずかしそうに咳払いをした後、コップを慎重に取る。

 

ダーカーに刺された左目は、再生が叶わず、結局義眼を入れるはめとなった。

まだ片目での生活に慣れきらず、物との距離感がいまいち掴めずにいる。

「そう、その様子で君を送り出すのは心配だが・・・」

・・確かに、上層に自分より強いアークスは居るのに、

自分で言うのも癪だが、わざわざこんな子供を、

しかも手負いの状態で何故・・?

 

「君は強い。かの六芒均衡に、もう少しで成り上がるであろう程に。」

まだ六芒均衡には敵わない、といったその言い方に少しむっとした。

「だったら、その六芒均衡サマに頼めばいいだろ。」

あからさまな態度でお茶を啜る。

「はは、まあそう機嫌を損ねないでおくれ。

六芒均衡や他の有力なアークスは、既にあの件と、ボイドの件で

皆駆り出されていて、もう君の他に歴史改変に送り出しても大丈夫なアークスが居ないんだ。

君は実に有力だ。まだ研究中の武器も、あっさりと使いこなしてくれている。」

あの戦場で傷を負った俺によく言うぜ、と傍らの、深紅の刀を見やる。

 

刀は、アークスの新しい希望とするべく考案され、研究中の新しい武器だ。

気を集め、精神を統一させ、一点に集中し強力な攻撃を放つ刀は、

現時点の作りでは、その難易度故に、まだ布教は難しいようだ。

何人か有力なアークスがその研究に手を貸したようだが、

使えたのは自分と、六芒均衡のトップだけだと言う。

今は、一握りの人間だけが持つ事を許され、その良さをもっと広く伝えよと

駆けずり回っている女性も居た。

確かに自分は、この武器がすっかり気に入り、使い続けている。

適性があった事で調子に乗り、こいつはわざわざ自分に合わせ打たせた刀だ。

先日の実験で、背が縮んでしまった事により、少し身に余るので、

この後、サイズ合わせにまた刀匠に頭を下げに行こうと思っている。

 

「そもそも、歴史改変て、そんな簡単にしていい事なのか?」

少し、期待している自分が居た。

「ああ、先日のダーカー大発生に関しては、改変を行う許可が下りている。

残念ながら、君の、研究室の件では、歴史改変は控えて欲しい。惜しいだろうがね。」

駄目か。期待した自分が馬鹿だった。

「・・分かったよ。で、いつだ?」

「君さえ良ければすぐにでも。」

「待て待て、俺はこいつのサイズ合わせに・・」

「では、その後なら構わないかな?」

「ああ。」

 

会議室を後にし、刀匠の元へ向かう途中、

メディカルセンターの女性に呼び止められる。

「アイルさん!検査の時間は伝えてありましたよね!?」

そういえばそんなんあったな、と、時計を見る。

1時間程予定の時間を押していた。

「あー・・俺今からジグの所に・・・」

「なら、その後すぐに来てくださいよ!」

刀の調整には少し時間も掛かるし、面倒だがまあいいか、と

分かったよと返事をし、全く!と怒り気味の職員を横目に歩き出した。

 

刀匠・ジグに具体的な調整内容を伝え、またメディカルセンターに戻り、

大人しく検査を受ける。

左目の様子を見、あの実験の後の体調を見、その後の異常を聞かれる。

特に困る事も今は距離感だけなので、それだけを伝えた。

身体にも、大きな異常は無いようだ。

医師は、身体に浮かび上がった紅い龍の模様の見映えを気にしていたようだが。

 

検査に思ったより時間が掛かったのか、刀の調整が早かったのか、

調整が完了したと通信が入り、時間を持て余す事無く済んだ。

少し早足で愛刀を迎えに行く。

渡された刀を見ると、戦闘で傷が付いていた

鞘や柄まで綺麗な物と取り換えてくれたようだ。

その場で刀を抜き、天に翳して見、素振りをする。

以前に比べ、大分軽く、使いやすくなった。

ニヤニヤと刀を眺めていると、こんな所で振るなと一喝されてしまった。

すぐにでも試し斬りをしてみたくなり、会議室へこれまた早足で向かった。

 

何かあればすぐに戻って来るように等、色々と話と任務の内容を聞かされた後、

タイムマシンは起動された。

 

 

To be continued.