A.P.238 2/20

細身の刀を長い腕に抱え、宙を往く飛行拠点の隅で

さらさらとした金色の長髪を微かに揺らし

惰眠を貪る、長身の見目麗しい少年が居た。

 

ここは“アークスシップ”

対“ダーカー”戦闘員、“アークス”を、

ロビーから惑星へ、惑星からまた別の惑星へ、

宇宙をワープし飛び回る、移動する拠点だ。

 

長く大きい耳を、時折ぴすぴすと動かし、

窮めて静かな船内で穏やかな寝息を立て、

時折揺れで身体をぱたりと倒しては、また座り直し、

愛刀を抱え何度も眠り直している、この少年の名を、アイル。

任務前にも関わらず、食後の昼寝を堪能していた。

 

耳元に付けた通信機から、ピピッと呼び出し音が鳴った。

「・・・・何だ。」

未だ重たげな青の長い睫毛を少し上げ、通信に答える。

「惑星ナベリウスにてダーカー反応を多数確認。直ぐに現場へ向かってください。」

アナウンサーが冷静且つ迅速に命を下す。

「・・・。」

返事もせず、無線を切った。

 

シップ内に設置してあるドリンク販売機で手早くドリンクを買い、

惑星・ナベリウスの地上を見下ろす。

これは確かに、自分が駆り出されても可笑しくない敵の量だ。

ドリンクの、ストローのように伸びた飲み口を噛んで咥えて刀を腰に据え、

水を張ったプールのように揺蕩うワープ装置に飛び込む。

水に触れた足元から、身体は粒子となり、シップの外へ放り出される。

浮遊感と重力に遊ばれ、舞うようにして落下してゆく。

鞘から抜刀し、敵陣の中心へ音を立て着地し、真っ直ぐに敵を見据える。

鈍く黒光りする、蜘蛛のようにも見える“ダガン”と呼ばれる個体が、

ざっと数えただけで15~20体、群を成し、アイルを取り囲んでいる。

 

ナベリウスは、原生種のみが出現する穏やかな惑星で、

ダーカーの存在が認められない為、新入アークスの試験の場になっていた筈だ。

時間的にも、今まさに試験が行われている所だろう。

なのに何故、唐突に、こんなに大量のダーカーの群れが・・?

・・まあ、そんな非常事態に備え、自分が駆り出されていた訳だが。

 

見れば、少し手遅れだったようで、2人ほど、

新入アークスがダーカーの犠牲になった跡が見える。

生々しい爪痕は、初心者用の柔い防具ごと簡単に背を切り裂いている。

「・・・・ちっ、骨くらいは拾ってやるか。」

ふっと短く息を吐き、精神統一したと同時に、周囲のダーカーへ一閃を噛ます。

素早くアークスのなれの果てへと近付き、携帯用のワープポータルを呼び出し、

やや乱雑に放り込む。

放り込んだアークスが使っていたと思しき短杖を拾い上げ、ダーカーに向ける。

大気から“フォトン”と呼ばれる気を集めて蓄え、炎に変えてダーカーへ放つ。

燃え上がったダーカーは、慌てるように走り回り、やがては燃え果て塵となり消えた。

数発撃つと、杖の先は崩れ落ちるようにして砕けた。

「・・・はっ、流石初心者用だな。も少しいいモン供給したらどうだ」

ぽつり、と独り言をもらし、手の平の上でフォトンを燃やし、

振り撒くようにして、引き続きダーカーを焼き払う。

「・・・ちっ・・・めんどくせえ・・・」

際限無く地面から沸いて出るダーカーに嫌気が差しつつ、

真っ赤に艶めく刀の背を、指ですうっと撫で、

大地を滑るようにして一気に斬り込む。

立ち止まった瞬間、背後に気配を感じ、振り返ると、ダーカーが爪を振り翳している。

その爪を刀で受け、そのまま大きく振りかぶり身体にフォトンの気を纏う。

「ウゼェな・・・弱え敵は嫌いなんだよ」

未だ微かな息をしているダーカーを見下し、心臓部であるコアに刀を突き刺す。

キュー、と甲高い悲鳴のような物を上げ、ダーカーは消えた。

 

粗方片付いた周囲を見回して確認し、納刀し、少し歩いてみる。

すると背後に、ダーカーとはまた違う気配を感じ、振り向こうとするも、

首筋に注射を刺され、地に倒れ伏す。

「ぐ・・っ」

「ごめんね?」

その男の顔を確認する事も叶わず、呆気無く意識を手放した。

 

 

To be continued.