細身の刀を長い腕に抱え、宙を往く飛行拠点の隅で
さらさらとした金色の長髪を微かに揺らし
惰眠を貪る、長身の見目麗しい少年が居た。
ここは“アークスシップ”
対“ダーカー”戦闘員、“アークス”を、
ロビーから惑星へ、惑星からまた別の惑星へ、
宇宙をワープし飛び回る、移動する拠点だ。
長く大きい耳を、時折ぴすぴすと動かし、
窮めて静かな船内で穏やかな寝息を立て、
時折揺れで身体をぱたりと倒しては、また座り直し、
愛刀を抱え何度も眠り直している、この少年の名を、アイル。
任務前にも関わらず、食後の昼寝を堪能していた。
耳元に付けた通信機から、ピピッと呼び出し音が鳴った。
「・・・・何だ。」
未だ重たげな青の長い睫毛を少し上げ、通信に答える。
「惑星ナベリウスにてダーカー反応を多数確認。直ぐに現場へ向かってください。」
アナウンサーが冷静且つ迅速に命を下す。
「・・・。」
返事もせず、無線を切った。
シップ内に設置してあるドリンク販売機で手早くドリンクを買い、
惑星・ナベリウスの地上を見下ろす。
これは確かに、自分が駆り出されても可笑しくない敵の量だ。
ドリンクの、ストローのように伸びた飲み口を噛んで咥えて刀を腰に据え、
水を張ったプールのように揺蕩うワープ装置に飛び込む。
水に触れた足元から、身体は粒子となり、シップの外へ放り出される。
浮遊感と重力に遊ばれ、舞うようにして落下してゆく。
鞘から抜刀し、敵陣の中心へ音を立て着地し、真っ直ぐに敵を見据える。
鈍く黒光りする、蜘蛛のようにも見える“ダガン”と呼ばれる個体が、
ざっと数えただけで15~20体、群を成し、アイルを取り囲んでいる。
ナベリウスは、原生種のみが出現する穏やかな惑星で、
ダーカーの存在が認められない為、新入アークスの試験の場になっていた筈だ。
時間的にも、今まさに試験が行われている所だろう。
なのに何故、唐突に、こんなに大量のダーカーの群れが・・?
・・まあ、そんな非常事態に備え、自分が駆り出されていた訳だが。
見れば、少し手遅れだったようで、2人ほど、
新入アークスがダーカーの犠牲になった跡が見える。
生々しい爪痕は、初心者用の柔い防具ごと簡単に背を切り裂いている。
「・・・・ちっ、骨くらいは拾ってやるか。」
ふっと短く息を吐き、精神統一したと同時に、周囲のダーカーへ一閃を噛ます。
素早くアークスのなれの果てへと近付き、携帯用のワープポータルを呼び出し、
やや乱雑に放り込む。
放り込んだアークスが使っていたと思しき短杖を拾い上げ、ダーカーに向ける。
大気から“フォトン”と呼ばれる気を集めて蓄え、炎に変えてダーカーへ放つ。
燃え上がったダーカーは、慌てるように走り回り、やがては燃え果て塵となり消えた。
数発撃つと、杖の先は崩れ落ちるようにして砕けた。
「・・・はっ、流石初心者用だな。も少しいいモン供給したらどうだ」
ぽつり、と独り言をもらし、手の平の上でフォトンを燃やし、
振り撒くようにして、引き続きダーカーを焼き払う。
「・・・ちっ・・・めんどくせえ・・・」
際限無く地面から沸いて出るダーカーに嫌気が差しつつ、
真っ赤に艶めく刀の背を、指ですうっと撫で、
大地を滑るようにして一気に斬り込む。
立ち止まった瞬間、背後に気配を感じ、振り返ると、ダーカーが爪を振り翳している。
その爪を刀で受け、そのまま大きく振りかぶり身体にフォトンの気を纏う。
「ウゼェな・・・弱え敵は嫌いなんだよ」
未だ微かな息をしているダーカーを見下し、心臓部であるコアに刀を突き刺す。
キュー、と甲高い悲鳴のような物を上げ、ダーカーは消えた。
粗方片付いた周囲を見回して確認し、納刀し、少し歩いてみる。
すると背後に、ダーカーとはまた違う気配を感じ、振り向こうとするも、
首筋に注射を刺され、地に倒れ伏す。
「ぐ・・っ」
「ごめんね?」
その男の顔を確認する事も叶わず、呆気無く意識を手放した。