A.P.238 2/20

 

まるでこの刹那が、スローモーションのように、

とてもゆっくりに感じた。

恐る恐る背後を振り返ると、人間の左腕。

綺麗な切り口からは、どくどくと血が流れ、アイルの靴を汚す。

青い髪の少年は、腕を押さえて座り込み、こうべを垂れている。

 

掛ける言葉が見つからない。

謝罪?言い訳?それよりまずは管制へ連絡?

人の腕を誤って切り落としました、なんて言える筈が無い。

 

ぐるぐると考えていると、少年は布で腕を止血し始めた。

そうだ、今シップへ帰らせれば腕も再生できるかもしれない。

背後の少年の腕を広い上げる。

流石に人の腕を持ち上げたのは初めてだ、意外と重みがあるが、細い。

などと考えながら、真っ赤な切り口を見た瞬間、ドクンと一際大きく心臓が脈打った。

一瞬意識が飛ぶような、自分じゃない何かに乗っ取られるように

気付けば、その腕にかぶりついていた。

 

半分程夢中で食い荒らした所で、はっと我に返る。

人の腕を誤って切り落とした挙句、それを本人の前で食べた。この人生も終わったも同然だろう。

「ああ・・・・あああああ・・・・・・あああああああああああああ!!!!!!」

パニックを起こし、頭を抱えて叫ぶ。この声が枯れる事は無いのだろうか。

すると、先程までと同じように、寧ろ、先程よりも強く、多くダーカーを呼んだ。

「・・・!!ダーカー!?」

青髪の少年が初めて声を発した。残った右腕で武器を持ち、立ち上がる。

「はは・・・・あははははは・・・・・ッ」

自分はいよいよ狂ったようだ。頭は真っ白で、笑いが込み上げてくる。

「・・・・・っ?」

振り返ると、青髪の少年はたじろいでいた。

「・・・美味そうだな?」

光を失くした瞳で、少年の腕から滴る血を見て言った。

「・・クローム・・・ドラゴン・・・・・?」

アイルの腹の模様を見て、少年が言った。

研修中のアークスでも、資料でくらい見た事はあるのだろう。

しかし目の前に居るのはドラゴンではなく、自分よりも小さな人間だ。

どうしたものか、判断しかねているらしい。

そうしてる間に、アイルが駆け出し、周りのダーカーをまた、捕まえては食い荒らした。

食べれば食べる程、まるで自分の血肉に変わるように力が沸いた。

少年はただ武器を構え、その様子を茫然と眺めていた。

 

一体残らず食べ尽くし、腹も多少満たされて、気分も少し落ち着いた。

「・・・・お前には、俺がどう見える?」

青髪の少年に問う。

「・・・・・・僕には・・・・アークスに見える。」

「俺がまだ、人間に見えるか」

そう問いながら、ゆっくりと少年に近付き、抑えている左腕にそっと指先で触れた。

「・・うん、少し・・・狂っているけれど」

指先へフォトンを集め、傷口を塞ぐ。

切り落とした左腕は食べてしまった。もう再生は無理だ。

それならもう、綺麗に塞いでしまおうと考えたのだ。

「・・・・・・そうか。・・・痛むか?」

「大丈夫。ありがとう。」

突然切り落とされて、よく礼が言えたものだ、と目を逸らす。

ピピッと少年の通信機から音がし、アナウンスの声が聞こえた。

「無事か。」

「・・無事です。」

「そちらにアークスを派遣する。合流してくれ。」

「・・・・・了解しました。」

プツン、と通信が切れた。

別のアークスが来る。逃げなければ。シップへと繋がるテレパイプを出す。

「待って・・!あっ・・・」

「・・・・・」

テレパイプへ入ろうとすると、背後から声を掛けられる。

少年は頭を抑えてこけた。流石に貧血だろう。

「あの・・・名前は・・・・・・」

報告でもするのだろうか。何にせよ、俺はもう終わりだ。構わないだろう。

「アイルだ。」

そう一言告げ、テレパイプの中へ姿を消した。

 

 

To be continued.