「ぐあ゛ああああああああぁぁぁぁッ!!!」
強烈な痛みと自分の叫びで目を覚ました。
「起きたかい?おはよう、もう、手遅れだけどね。」
男は、数本のコードを持ち、薬品が沢山置かれた台に片手をつき、
薄い笑い顔で、横たわるアイルを見下し言った。
身なりと部屋から見るに、研究者か。
恐らく、裏で噂になっていた研究機関、“ボイド”の一人だろう。
「はあ・・・はあ・・・っ、手・・・遅れ・・・・?」
少し、喉が可笑しい、感じがした。
「・・・お前がボイドの研究員か?」
確認する自分の声を改めて聞き、決定的な違和感に気付く。
自分の声が、幼くなっている。
身体を起こそうと、力を込めた。
「・・・ぐぇ・・・っ!」
首、手首、足首を拘束されているようで、起きるのは無理そうだ。
アイルの様子を眺め、研究員はただただ笑っている。
「・・・はあっ・・、何が可笑しい・・、何が目的だ、金か?」
アイルは、とある富豪の息子で、まず浮かんだのは、身代金の要求。
しかし、研究員は笑い、ちっちっ、と人差し指を振る。
「もう手遅れだと、言っただろう?」
「だからそりゃどういう意味かって聞い・・ッ ・・!?」
眼前に、鏡を持って来られ、自分の顔を見て驚愕した。
小さく、いや、幼くなっている・・?
「こいつは・・・・一体・・・・ッ」
眩暈がした。が、意識はしっかりと鷲掴んで離さずに。
研究員は、バインダーに挟んだ資料を眺めながら口を開いた。
「君は、“フレンドパートナー”というのを、知っているかな?」
「フレンド・・・パートナー・・・?」
名前だけは、何処かで聞いたような気がする。
「ああ、我々よりも一回り小さい体躯でありながら、
我々と同等の力を発揮する人口生命体・・・」
「・・・それがどうした」
「その実験を、君を対象にさせてもらったよ。この資料を使えば、
フレンドパートナーを人工的に生み出せるだろう。」
「・・・何で・・・・・何で俺なんだ!?」
「君が、たまたま目についた“ニューマン”だったからさ。」
「・・・んだと・・・・ッ!!」
“ニューマン”とは、大気中のフォトンを使いこなす事に長けた、
大きな耳が特徴の種族だ。
ニューマンは、そのフォトンを扱う火力と引き換えに、身体が他の種族よりもか弱い。
「・・・だからって・・・・・!」
「男のニューマンは、アークスである全種族の中でも窮めて少ない。数える程だ。
つまり、無価値なんだよ、君は。」
「・・・無価値・・・だと・・・・・?」
だから、実験台にしたと・・?
許せない・・・・
「あと、もうひとつ、要と言ってもいい実験をさせてもらった。
・・・君は、“造龍”をご存じかな?」
「・・・・造龍・・?」
「そう、造られた龍。以前は失敗したが僕は、諦め切れなかった。
・・・まあ、結果は見ての通り、今回も失敗だ。残念だなあ。」
「・・・・・そんな研究者のエゴで・・・・この俺を・・・・・」
・・・・許せない。
許せない許せない許せない許せない許せない許せない。
「・・・・許サナイ」
「・・え?」
爆発音と共に、アイルが拘束されていた研究台が炎を上げ爆ぜる。
「・・・な・・・ッ!!お前・・!大人しくしろ!!」
研究員が、拘束から解放されたアイルに銃を向ける。
「失敗・・?失敗だと?ハハ、ハハハハハ・・・・ッ!」
アイルの高笑いと共に、燃える服の下の皮膚に、深紅の模様が浮かび上がる。
「・・・!!その模様は・・龍の・・・!!」
研究員は銃のトリガーを引くが、ひらりとかわされる。
「く・・・っ、来るな・・!!」
「アハハハハハ、ヒャハハハハハハハ!!!」
狂ったように高笑いを上げ、アイルが研究員に掴みかかった。
「あ・・・ぐぁ・・・っ!」
「ハハハハハッ、さぁ・・・どうしてくれようか?」
「や、やめろ・・!やめてくれ・・!!」
掴みかかる手に力を込めた瞬間、二人を取り囲むようにしてダーカーの群れが沸く。
「ダ、ダーカー!?何故ここに!?」
「・・・・・!」
その時、アイルは芳しい香りに魅了され、研究員を放り捨て、ダーカーに近寄った。
「・・・君・・・・何を・・・・?」
自分でも、何をしようとしているのかが分からない。
何が自分を衝き動かしているのかが分からない。
でも・・・・何故だか、唾液の分泌が止まらない。
飲み込んでも、飲み込んでも、溢れんばかりに・・・
アイルは、跳ね上がりダーカーに飛び掛かった。
するとダーカーは、その鋭い爪をアイルの左目に突き刺した。
「ンぐ・・・ッ!!あ゛ぁ・・・!!」
「君・・!!」
左目を抑え、転げ回った。しかし、痛みはすぐに収まった。
食欲の増強と引き換えに。
短くなった腕を伸ばし、ダーカーの脚を鷲掴んで、
一気に齧り付いた。
噛まれたダーカーと研究員から悲鳴が上がる。
嗚呼、ダーカーってこんな美味かったのか、と、ただただ感動した。
ゴリゴリと歯の間で砕ける歯応えに、音に、ねっとりと舌に絡む、濃厚な苦味に、
逃げよともがく姿に、鼻腔を漂う目も眩む程の風味・・・
逃げ出した憎き研究員も、けほども気にならない程の快感。
全てを、
此処に居る・・・・否、全惑星に生息する生物全てを、喰らいたい・・!!
刹那、アイルの叫ぶような高笑いと共に、強大火力の放電による爆発で、
闇の研究室の一室は、壊滅した。
後日、
ダーカー大発生と、少女の影と、
『ダーカーを喰らうアークスの存在』の噂が、アークスシップ内に蔓延した。