A.P.238 2/20

 

「ぐあ゛ああああああああぁぁぁぁッ!!!」

強烈な痛みと自分の叫びで目を覚ました。

「起きたかい?おはよう、もう、手遅れだけどね。」

男は、数本のコードを持ち、薬品が沢山置かれた台に片手をつき、

薄い笑い顔で、横たわるアイルを見下し言った。

身なりと部屋から見るに、研究者か。

恐らく、裏で噂になっていた研究機関、“ボイド”の一人だろう。

「はあ・・・はあ・・・っ、手・・・遅れ・・・・?」

少し、喉が可笑しい、感じがした。

「・・・お前がボイドの研究員か?」

確認する自分の声を改めて聞き、決定的な違和感に気付く。

自分の声が、幼くなっている。

身体を起こそうと、力を込めた。

「・・・ぐぇ・・・っ!」

首、手首、足首を拘束されているようで、起きるのは無理そうだ。

アイルの様子を眺め、研究員はただただ笑っている。

「・・・はあっ・・、何が可笑しい・・、何が目的だ、金か?」

アイルは、とある富豪の息子で、まず浮かんだのは、身代金の要求。

しかし、研究員は笑い、ちっちっ、と人差し指を振る。

「もう手遅れだと、言っただろう?」

「だからそりゃどういう意味かって聞い・・ッ ・・!?」

眼前に、鏡を持って来られ、自分の顔を見て驚愕した。

小さく、いや、幼くなっている・・?

「こいつは・・・・一体・・・・ッ」

眩暈がした。が、意識はしっかりと鷲掴んで離さずに。

研究員は、バインダーに挟んだ資料を眺めながら口を開いた。

「君は、“フレンドパートナー”というのを、知っているかな?」

「フレンド・・・パートナー・・・?」

名前だけは、何処かで聞いたような気がする。

「ああ、我々よりも一回り小さい体躯でありながら、

我々と同等の力を発揮する人口生命体・・・」

「・・・それがどうした」

「その実験を、君を対象にさせてもらったよ。この資料を使えば、

フレンドパートナーを人工的に生み出せるだろう。」

「・・・何で・・・・・何で俺なんだ!?」

「君が、たまたま目についた“ニューマン”だったからさ。」

「・・・んだと・・・・ッ!!」

“ニューマン”とは、大気中のフォトンを使いこなす事に長けた、

大きな耳が特徴の種族だ。

ニューマンは、そのフォトンを扱う火力と引き換えに、身体が他の種族よりもか弱い。

「・・・だからって・・・・・!」

「男のニューマンは、アークスである全種族の中でも窮めて少ない。数える程だ。

つまり、無価値なんだよ、君は。」

「・・・無価値・・・だと・・・・・?」

だから、実験台にしたと・・?

許せない・・・・

「あと、もうひとつ、要と言ってもいい実験をさせてもらった。

・・・君は、“造龍”をご存じかな?」

「・・・・造龍・・?」

「そう、造られた龍。以前は失敗したが僕は、諦め切れなかった。

・・・まあ、結果は見ての通り、今回も失敗だ。残念だなあ。」

「・・・・・そんな研究者のエゴで・・・・この俺を・・・・・」

・・・・許せない。

許せない許せない許せない許せない許せない許せない。

「・・・・許サナイ」

「・・え?」

爆発音と共に、アイルが拘束されていた研究台が炎を上げ爆ぜる。

「・・・な・・・ッ!!お前・・!大人しくしろ!!」

研究員が、拘束から解放されたアイルに銃を向ける。

「失敗・・?失敗だと?ハハ、ハハハハハ・・・・ッ!」

アイルの高笑いと共に、燃える服の下の皮膚に、深紅の模様が浮かび上がる。

「・・・!!その模様は・・龍の・・・!!」

研究員は銃のトリガーを引くが、ひらりとかわされる。

「く・・・っ、来るな・・!!」

「アハハハハハ、ヒャハハハハハハハ!!!」

狂ったように高笑いを上げ、アイルが研究員に掴みかかった。

「あ・・・ぐぁ・・・っ!」

「ハハハハハッ、さぁ・・・どうしてくれようか?」

「や、やめろ・・!やめてくれ・・!!」

掴みかかる手に力を込めた瞬間、二人を取り囲むようにしてダーカーの群れが沸く。

「ダ、ダーカー!?何故ここに!?」

「・・・・・!」

その時、アイルは芳しい香りに魅了され、研究員を放り捨て、ダーカーに近寄った。

「・・・君・・・・何を・・・・?」

自分でも、何をしようとしているのかが分からない。

何が自分を衝き動かしているのかが分からない。

でも・・・・何故だか、唾液の分泌が止まらない。

飲み込んでも、飲み込んでも、溢れんばかりに・・・

アイルは、跳ね上がりダーカーに飛び掛かった。

するとダーカーは、その鋭い爪をアイルの左目に突き刺した。

「ンぐ・・・ッ!!あ゛ぁ・・・!!」

「君・・!!」

左目を抑え、転げ回った。しかし、痛みはすぐに収まった。

食欲の増強と引き換えに。

短くなった腕を伸ばし、ダーカーの脚を鷲掴んで、

一気に齧り付いた。

噛まれたダーカーと研究員から悲鳴が上がる。

嗚呼、ダーカーってこんな美味かったのか、と、ただただ感動した。

ゴリゴリと歯の間で砕ける歯応えに、音に、ねっとりと舌に絡む、濃厚な苦味に、

逃げよともがく姿に、鼻腔を漂う目も眩む程の風味・・・

逃げ出した憎き研究員も、けほども気にならない程の快感。

 

全てを、

此処に居る・・・・否、全惑星に生息する生物全てを、喰らいたい・・!!

刹那、アイルの叫ぶような高笑いと共に、強大火力の放電による爆発で、

闇の研究室の一室は、壊滅した。

 

後日、

ダーカー大発生と、少女の影と、

『ダーカーを喰らうアークスの存在』の噂が、アークスシップ内に蔓延した。

 

 

To be continued.