荒れ果てたストリート・路地裏。
ここもかつては華やかで活気のある街だったんだそうで。
今では、見る影も無いが。
そこらには汚いゴミや、
ボコボコにされて痛くて死んだ人たちがゴロゴロ落ちてる。
誰も、目を当てる事すらせず、足早に通り過ぎて行く。
僕は違う。その死体だって、まだ金目の物を持ってるかもしれないだろ―。
陽気な鼻歌を歌いながら、一人の少年が路地裏を歩いて行く。
ぴたり、と、老人の死体の前で足を止めると、その死体を乱暴に蹴り転がし、仰向けにした。
少年の目に留まったのは、襟元のバッジとネクタイ。
「ほぉら、持ってる持ってる。」
唇に笑みを浮かばせ、バッジとネクタイを手際よく持ち去る。
「ゴロツキ共も馬鹿だよなぁ。価値があるのは財布の中身だけじゃないのに・・ふふっ!」
それらを懐にしまい、また鼻歌まじりに歩き出す。
すると正面に、杖を持ち、スーツを着ている中年の男を見つけた。
「ねねっ、おじさま、どこ行くの~?」
とんとんっ、と軽く肩を叩き、声を掛ける。
「あん?何だお前は・・・・ほーう・・?」
男は少年の顔を見、にやりと笑う。
少年は、少女のような可愛らしい顔に、小さな背丈、
ふわふわの髪には甘い香りの香水を付け、見るからに柔らかそうな白い肌をし、
ピンク色の大きな瞳で、男を見上げる。
それは、まるで人懐っこく従順な小型犬のようだ。
「なるほど、ここらでは見ない上玉だ。何が望みだ?ん?」
「ふふ、どーもっ。ボクねー、ちょーっと欲しいものがあってぇー。」
甘い猫なで声で言う。
「何が欲しいんだ?何でも買ってやるぞ?お前次第でな?」
「ふふふ・・おじさま、ボクをなめちゃダメだよ。上手なんだから。」
「ほう?それは楽しみだな。」
「天国、見せてあげるよ。」
少年は男の首を引き寄せ、キスをした。
小さな唇で男の舌を吸う。
「ね、ここじゃヤだよ・・裏、行こうよ。」
抗う事を許さない、少年の甘い誘惑。
男は少年の手に引かれ、路地裏を歩き、廃墟へ向かった。
1時間程が経った頃、少年は服を着ながら言う。
「いい加減満足したでしょ?有り金全部出しなよ。」
「なに全部!?それは無理だ」
「こんだけ僕の事ヤリ倒しといて無理?笑わせないでよ。」
「無理なものは無理だ。失礼する」
慌てるように、男はその場を去ろうとする。
しかし少年に胸倉を掴まれ、そのまま持ち上げられる。
「ぐ・・っお前・・どこにそんな力が・・っ!」
確かに少年は華奢で細く小さい。
外見からはとても、男一人持ち上がる筋力があるようには見えないだろう。
「怪力なんでね。」
クールに言い放ちつつ、もう一方の手で男のコートの内側を漁る。
「や・・やめろ・・っ!」
「このまま、首を締上げて殺してもいいんだよ?」
「ひ・・っ」
その視線は、先ほどまでとは別人のように冷たかった。
「財布ごと貰うよ。ついでにこのネクタイとブレスレットも貰ってくね。
これ凄いね~、名高いブランド物だし、高かったでしょ~?」
「く・・っ」
男を投げ捨てるように手を離し、少年はその場を立ち去ろうとする。
すると男は、護身用と思われるナイフを取り出し、少年の背中に一気に近寄る。
少年は、見計らうかのように男の腕を掴み、捻り上げる。
ボキン。
「うあああああああッ・・!!」
片手で悠々と腕を折り、痛々しい悲鳴が上がる。
「あーらら、おかわいそうに~。腕で済んでよかったね?それじゃ、バイバイ。」
ついでに、と、男の杖を拾い上げ、今度は歌を歌いながら、
路地裏の奥へ、少年は消えて行った。