真っ白な床と壁、消毒液の匂い、一定のリズムを刻む電子音。

そこは、何の変哲も無いように見える病室。

しかし、そこに立つ医者達は、所謂、裏の世界の住人だった。


この病室に運ばれたのは、金髪の少年。

今は、麻酔で眠っている。

彼は以前にも、右目の手術でここを訪れている。

その右目は回復できず、今は無くし眼帯に隠されている。

その時も、赤色のメッシュが印象的だと、思った。


医者は、少年に被せられたシーツを捲くり、小さな身体を見つめる。

腹だけが異常なまでに膨らんでいる。

妊娠のようにも見えるが、この子は生まれながらに男で、更には幼い少年だ。

女の子のような顔はしているが・・・だ。

それでも医者はこの大きな腹に、もうひとつ命が宿っていたと踏んだ。


「これより、腫瘍の摘出手術を開始する。」

医者の掛け声に応えるようにライトが点り、手術は始まった。



優しい花の香りで目を覚ます。

ゆっくりと枕元を見ると、花瓶には淡い色をした花が生けられていた。

「にいさん・・だい、じょうぶ?いたい、所は?」

ベッドの横には、顔のそっくりな少年が座り、心配そうな顔をしていた。

花は、彼が持ってきたのだろう。

「ああウェヌ・・大丈夫だよ。」

安心させるように返し、少しだけ身体を起こす。

その身体は異常に軽く感じた。

被せられていた布団を上げ、自分の腹を確認する。

邪魔臭かった腹は綺麗に無くなり、平らになっていた。

安心したようにもう一度横たわる。


家に異常などはないか、ご飯はちゃんと食べているか、など、

軽く話をしていると、医者がカルテを持ってやってきた。

「気分は?」

「問題ない、ありがとう。」

「それはよかった。君の腹の腫瘍なんだがね、写真を見せたいんだが、大丈夫かい?」

「ああ、是非見せてくれ。」

医者はバインダーから一枚の写真を外し、手渡す。

二人の少年は、一緒に写真を覗き込む。

そこには、小さな心臓や脳や尖った歯、ぐちゃぐちゃになった髪の毛のような物が写り込んでいた。

「うぇ・・これは?」

予想以上だったのか、少し気分を害したようだ。

「これは、君の腹から出てきた腫瘍の、更に中から出てきたものだよ。」

「・・・は?」

何を言っているのか分からない、というように医者を見つめる。

「つまり、君達は本来三つ子だったのだろう。

そのうちの一人の身体は上手く形を作れず、君にくっついてきた・・、と言えばなんとなく分かるかな?」

「俺たちが・・・三つ子・・?」

「そうだ。」

「そのもう一人は・・?」

「臓器が揃っていない。こんな話を聞かされては残念だろうが・・」

「臓器が揃えば、パズルみたいに組み合わせて一人の人間ができるのか?」

予想外の言葉に、医者は少し驚く。

「やってみなければ分からないが・・・」

「なら集める。こいつも、兄弟なんだろう?こんな状態でも、せっかく生まれたんだ。」

この兄弟の噂は、こっちの世界では嫌という程耳にする。

故に、この幼い少年が言う事も、嘘であるとは思えない。

自分も裏で生きる人間だ。

人間を作る、という事に興味が沸いてしまい、少年を止める気にもならなかった。


それから、その幼い兄弟は大人を使役し、病院へ死体を持ち込むようになった。

使えるパーツは一旦保存し、合わないパーツは必要とする人間へ売り、その売り上げを

今回の手術費へ当てた。


そして月日が流れ、揃えられたパーツを組み合わせる日が来た。

バラバラの臓器を詰める容器は、特殊な人形。

人間のパーツを、筋肉や神経、血管に至るまで詰められる。

顔だけを見たのなら、人形であるとは分からない程の出来だ。

女性のパーツが多く集められた為、その人形は少女の姿をしている。

と言っても、顔立ちだけで、性器も胸も無いが。

先の事を考え、今の少年達より少しだけ大人びた外見だ。


「これより、人間の生成手術を行う。」


医者の一言で、狂った儀式は始まった―。