*キャラクター

 ジェイド

 オード

 サクマ


「連れてきたよ!」

オードが慌ただしく育て屋に入ってくる。

「ちょっとオード、ドアは静かに開けなさい。

っていうか今アタシ考え事を・・・・・・ヤダ何そのカワイイ子。彼女?」

オードの斜め後ろに居る未だ女装姿のサクマを見て言う。

「・・・に見えるか?」

半ば呆れたような、嫌がるような顔でサクマが問う。

「こんな時におノロケなんて聞きたくないわよ。にしてもカワイイ顔して声低いわねぇ・・・まるで男・・・」

「俺は男や」

「・・・・・・は?ちょっとオードアンタそういう趣味が・・・」

「ないよ」

「っていうかコッチもイケたのね」

「どっちだよ」

 

ゴホン、とオードが咳払いをして言う

「今彼は俺の言いなりの人形だから!」

「「はぁ?」」

ジェイドとサクマは声を揃えて言った。

「さあ墓地へ行こう!」

オードが無理やり二人の手を引く。

「ちょ、ちょっと待ちなさい何で墓地・・・っていうか戸締り・・・」

「・・・・・・・・・」

ジェイドはわたわたと、

サクマはもう思考するだけ無駄と悟り、そのまま着いて行った。

 

オードが本と椅子を持ち、二人を連れて墓地へ来た。

ジェイドはニアの墓の前で新品の花を眺め、

オードとサクマは、少し離れた場所で何やらぼそぼそと話している。

「・・・ホンマにやるんか?どうなっても知らんで」

「大丈夫、信じてるよ」

「はぁ・・・」

 

オードが生き生きとした顔で、サクマが面倒くさそうな顔をして、ニアとジェイドの前に戻って来た。

「オード・・・一体何を・・・」

「これから、降霊術を行う」

「・・・・・・は?」

オードのあまりに突拍子もない話に呆れる。

「まあまあ、ジェイドは大丈夫。犠牲は彼だから。」

サクマを指さして穏やかな笑顔でさらっと言ってのける。

「おい犠牲言うなや」

「はは、ごめんごめん」

「ははとちゃうやろ」

まあまあ、とオードがサクマを椅子に座らせる。

 

「サクマ、楽にしてて」

大人しく座るサクマの耳元でオードがそう囁き、怪しい呪文を唱えると、

サクマががくんと項垂れ、数秒後ゆっくり顔を上げた。その目は虚ろだ。

「・・・・・・ジェイド」

サクマ・・・もといニアが、囁くようにして、小さく呟いた。

「・・・ニア・・・?ニアなの・・・?」

その手をそっと握り、膝をついて顔を見やる。

「まずは、あなたより先に旅立った事、謝らせてください。ごめんなさい。」

「・・・アンタ、旅が好きだったもの・・・昔からね・・・いつもアタシも連れて行きなさいって言ってたのにね・・・」

胸に揺れるシルバーリングを強く握りしめたジェイドの目が、少し潤む。

 

「・・・・・あなたは、私達の育て屋を、ポケモン達を、しっかりと守ってください。」

変わらずに虚ろだが、しっかりとジェイドの目を見て言う。

「ええ・・・当然でしょう?私、アンタの遺した育て屋もポケモン達も、大好きなのよ」

「信じていますよ、ジェイド。」

「任せなさいな」

ジェイドはにっと笑い、自分の胸を叩く。

「ありがとう、いつも側で、あなたを見守っています。愛していますジェイド。さようなら・・・」

とうとう涙は流れ落ちた。

「私も・・・愛してるわ、ニア・・・さようなら」

 

サクマの膝で泣き出したジェイドの顔を掴み、持ち上げる。

「ブッサイクやなぁ」

「・・・な゛ん゛で゛す゛っ゛て゛ぇ゛?」

「声も酷いわ。ニア、近くで見てんで。」

「・・・分かってるわよ、クヨクヨしてる暇なんてないわ。アタシ、育て屋に戻らなきゃ。皆が待ってる。」

手の甲でぐしぐしと顔を拭い、立ち上がる。

「分かってるならええんや」

「短かったけど、幸せな時間だったわ。オード、カワイコちゃん、ありがとね」

笑ってそれだけ言い残し、ジェイドはしっかりとした足取りで育て屋に戻って行った。

 

「・・・あんな感じでよかったんか」

ニアの前にぽつりと残されたサクマが、オードに問う。

「・・・・・・うん、バッチリ。俺も驚いたよ。」

「お前が驚いてどないすんねん。・・・まぁ、少し心苦しくはあるけどなぁ。」

珍しくサクマが少し俯いた。

「・・・でも、君のおかげでジェイドは迷いを捨てられたんだ。俺からも感謝してるよ、ありがとう。」

「・・終わったなら俺は帰んで。あ、女装の件、ちゃんと黙っとれよ?」

「分かってるって」

 

サクマも立ち去り、いよいよ一人残されたオードは椅子に座り、読み上げていた呪文書をぺらぺらと捲ってみた。

本は真っ白だ。

しかし最後のページに、

『愛しのジェイド  いつも近くに  ニア』

と綺麗な字で書かれていた。

「不思議な事ってあるもんだなぁ」

オードは本を閉じ、椅子を抱えて、賑やかな声が響くいつもの育て屋に戻って行った。