*キャラクター

愛子春


「この意味に合ったことわざは何ですか」

教師が教科書と教室を交互に見て話す。

その中で、教卓の正面の席に位置し、一生懸命ノートに教師をスケッチしている少年を指した。

「えー、では、出席番号1番、愛子春君」

「ん~?」

「ん~じゃない、聞いてた?この言葉を意味することわざ。今美術じゃないからね。」

「将を射んと欲すればまず馬をYeah!!」

「惜しい。その突き上げた右腕を下ろしなさい。あとそのまま立ってなさい。」

 

「ホントは君の順番先週だったんだからね。ずっと授業サボってたけど。」

「ん~」

「ん~じゃない、やけに巧妙なスケッチやめなさい。

ではもっと簡単なのにしよう、知らなかったら幸せだったって意味のことわざは?」

アイコ「知らぬがホットケーキ」

先生「何でだ。立ってなさい。」

 

「君きっと頭は悪くないのになぁ・・・惜しいもん。で、そのヘルメットはいつ取ってくれるんだね」

「え~これは取れないよう、危ないもん~」

「何が」

「壁~」

「壁・・・?」

「そうあれは今から一年前に遡る」

「何か回想入っちゃった。あと先生その話もう知ってるからね」

 

一年前、春は通学中、不幸にも大事故に遭ってしまう。

登校中、改装中の建物の足場がきちんと固定されておらず、崩れて春の上に降り掛かったのだ。

即座に病院へ搬送され、しばらく昏睡状態が続いたが、何とか一命を取り留めた。

脳損傷を受けこの回復速度は奇跡とも言われた。

リハビリも予定よりずっと早く終わった。

 

しかし、優秀だった頭脳も、運動能力も失い、人格すら変わり、ここ数年間の記憶が欠落していた。

覚えていて事故直前までと、中学入学以前の記憶だと言う。

その取り留めた記憶すらおぼろげだ。

 

以降、春はヘルメットを常に被って生活している。

当然教師達には外すよう言われるし、無理矢理外されそうになった事も何度かあるが、必死になって逃れてきた。

 

今はSクラスからCクラスに移す事で今は周りも本人も落ち着いているらしい。

 

「・・・・・・という事なのです」

「そうですか、分かりました。では春君、さっき教えたことわざを復習してみようか。将を射んと欲すれば?」

「まず馬をYeah!!!!」

「廊下に立ってなさい」