A.P.238 2/20

 

独りきりのシップで、何も言わず、俯いて

雨に濡れたシャツを脱ぐ。

さっきまでは煌々と揺らめいていた身体の模様を

胸から腹にかけて、指先でなぞり、

思い出せる限りの記憶を呼び起こしては溜め息をついた。

「・・・・・はぁ・・・・・終わりだ・・・・・・」

壁を伝うように、床にへたり込む。

タオルで、雨や血に濡れた髪と身体を、のろのろとやる気無く拭く。

すると、鈍くゴツンと音がして、微かに揺れていたシップが止まった。

帰って来てしまった・・・

どんな顔で皆の前に出たらいいのかと考えていると、ピピッと通信機が鳴る。

「・・・アイルだ」

「よー、随分声が暗いな?疲れたか?」

「ゼノ・・・・」

繋がれた相手はゼノ、

何かとアイルに世話を焼いてくる、面倒見の良い先輩だ。

「ああ、疲れたぜ」

「結構結構!」

結構なものか・・・と頭の中でげんなりする。

「俺も今帰還して、研修生を一人シップに帰してきた所だ。」

「ベテランアークスも大変だな?」

「まーた思ってもない事を・・・お前はまだ船か?」

「ああ、雨に濡れたから着替えてた」

「そうか、じゃあもう入っていいな?」

「ちょっ・・待て!!!」

わたわたと開けっ放しだったシャツのボタンを止める。

恥ずかしいのではなく、模様を憐れむようなあの目が、何となく好かないのだ。

シュッと自動ドアが開く音がして、赤い髪に赤い服の男が片手をひらひらと上げながら入ってきた。

「まだ入っていいなんて言ってないだろ・・」

「まあまあいいじゃねぇか。そうカッカするなよ」

「ったく・・・」

「どうだった、現地の様子は?酷い有様だったろ?」

その質問にドキリとする。だが顔に出してはいけない。

「ああ、酷かったぜ。あんなにダーカーが湧くなんてな」

まあ、その大半は自分で呼び出したものだったが。

「確かにな。俺が研修生救出の為到着した頃にはもう片付いてたが、映像で様子は見てたぜ」

「ノロマめ」

「うるせぇ。ベテランアークスは忙しいんだよ!」

嫌味ったらしく、ベテランの部分を強調して言った。

「まぁお前が全部蹴散らしたんだろうが、大したモンだぜ、全く」

「はいはい、上から上から」

いちいち悪態をついては、ふいっと他所を向く。

「素直に褒められとけ!ホント可愛くねぇなお前は!」

ガシガシと強く頭を撫でられる。

「い゛ってえ!!!」

持っていたタオルで、バシッとゼノを叩くも、ゼノは変わらず笑っている。

「お前が居たから、研修生の多くが救われたんだ。ここはもっと誇っていいんだぞ?」

その言葉に、少し胸が痛くなった。

俺は、何もしちゃいない。それどころか・・・・・・・・・・・

「まぁこんな所じゃ何だ、暴れまわって腹も減っただろ。飯でも行こうぜ?

お前の馬鹿みたいな食欲を、ちっとは減退させるような話もしてやるよ」

「・・・はっ、やってみろ」

ゼノの後に続き、アイルも船を後にした―

 

 

To be continued.